ミリオンものゲートとカメラと人と
よほどのことじゃ動じない New Yorker たが今回は見る者の度肝を抜いた。
今月12日、Central Park 全体がサフラン色に輝いた。

制作 : Christo and Jeanne-Claude 夫妻
タイトル : The Gate
Central Park 全体をアート会場と見立て、New York 歴史上最大のパブリックアートが開催されているのだ。
New York はもともと街中にパブリックアートが多い都市でもあるし、特別プロジェクトとして NYC Cow Parade なども記憶に新しい。
今回も New York を舞台にしたパブリックアートの1つなのだが、舞台は Central Park のみで、しかもその表現は無数ものゲート、それも公園の中に自然には存在しないような明るいオレンジ色の旗が翻る大きなゲートが公園内の歩道にくまなく設置されたのだ。

もちろん市民に内緒で準備していた、というわけではなく公園の中には早くからゲートを設置するための鉄製の土台が1~2メートルおきに配置され、散策する人が躓いて転ばないようにブラスチック製の赤いスティックが注意を促していたので、一ヶ月くらい前から気が着いていた人も多い。
またこれだけの数のゲートとそのゲート1つずつに取り付けられるオレンジ色の旗を作成するには時間がかかり、この様子はニュースでも取り上げられていた。
公園内のあらゆる場所に設置されるとあってこの準備は Manhattan では出来ず、Queens の僕の近所の巨大スペースを借りて作業しているということだった。

12日当日、昼過ぎに Central Park に到着。曇天。
青空の方がオレンジとの対比が面白そうだが、低くたれ込めた曇り空の下でもオレンジ色は意外によく映える。
もちろんこの日が初日と言うことを知っていたので僕もいつものカメラに、広角と望遠レンズを持ち出して行ったのだが、地下鉄駅から地上に出て驚いた。冬の灰色した公園がまるでオレンジ色の花を咲かせているか、公園自体が花壇の様にも見えた。
もう一つ驚いたのは一度にこれだけ沢山の人が Central Park にいたのも見たことがなかった。
僕もその1人だから何とも言えないが、ほとんどの歩道を人が埋め尽くし、彼らの手や首からはデジタルカメラがかかっていた。

もちろん大半の人は家族や友人と連れだってアートを見に来ているのだが、いつもと違ってこの日はフォトグラファーの人たちも多く、公園の中で撮影をしているといろいろな人と話が出来た。
僕などは「300mmなんて望遠使わないだろう」と望遠レンズは EF70-200mm ズームを持って行ったのだが、話をした写真家の1人は400mmのレンズを持ってじっくりと三脚に据えて写真を撮っていた。
背中に背負った鞄には「FRA → JFK 」と航空機タグが着いたままだ。「ドイツから来たの?」と訪ねると、僕よりも Thick なアクセントそのままに ( 恐らくドイツ人なまりなのだろう )、この Claude 夫妻 のアートの写真を撮るためだけに New York を訪れているのだという。
この夫妻の名前を聞いてピンと来た人もいるかも知れない、実は何年も前に日本でも彼らはパブリックアートを行った。確かこのときのタイトルは「 Umbrellas 」だったのではないかと記憶している。
他にも友人から指摘されて思い出したのだが、彼らは、米マイアミ沖に浮かぶ小さな島のいくつかを舞台に、海岸に大きなピンクの記事を浮かべ、上空から見ると島がピンクの珊瑚礁に囲まれているかのように見える大きなプロジェクトをやり遂げたこともある。
フランクフルトから来たこの写真家は「彼らの作品を実際にこの場で見られてとても幸運だと思う」と言っていたが、外国からこのアートを見に来ていたのは彼だけではなかったようだ。
400mmのレンズを携え ( 他にもいくつ持ってきたようだが) 、New York 入りした彼の意気込みを感じて、「パブリックアートだから、このレンズでいいかな」などと安直に判断した自分がちょっと情けなかった。
こうして夫妻の手により実現したプロジェクトが、また別のアーチスト達によって異なる次元のアートに昇華していくところが、パブリックアートのよいところでもあるのだろう。
こうして見に来ている人も写真を撮りに来ている人も知らず知らずのうちに自分がパブリックアートに参加してることになるのだ。

これだけの規模のプロジェクトなので、のべ距離やいくつのゲートがあるか、なんてのは体感するためのアートとしてはあまり関係のない話なのだろう。それでも沢山の人が尋ねるとあって公園内にボランティアが設置した臨時案内所にはこう書かれていた。
のべ距離 23マイル ( 約36.8km )
ゲート数 7500
国や市、企業からの縛りを受けたくない、という彼らの想い「 Freedom 」がこのパブリックアートの根底にあるとのことで、こういった団体からの支援は全く受けていないのだそうだ。それでいて制作費用は2100万ドル、つまり20億円ほどかかっているのだから個人のパトロンが沢山いるということなのだろうか。
構想~交渉は26年もかかって実現したこのプロジェクト、当初は NY 市も不許可にしたらしい。それからさらに10年以上経ち、現 NY 市長と夫妻が個人的にも親しいことから話がトントン拍子に進み、実現にこぎ着けられた、とのことだった。
この日、気が着くと10人以上もの見知らぬ人たちと会話をしていた。
ほとんどは地元、New York に住んでいる人たちだったけれど、ここに来て自分の目で見るまではこのアートが公園にふさわしく無い、と感じていた人が多かった。ところが来てみて自分の考えが間違いだった、と口々に言う。ある人は「 この色は Zen の色。これは Zen への沢山の門なのよ」と言い、ある人は「最初はこれだけのお金をかけると聞いて馬鹿らしいと思ったけど、来てみてそう思ったのが恥ずかしい」という人も。
皆これだけの大きさのアートを目の前にして、何か自分の気持ちを伝えねば気が済まないかのようだった。独り言を話すようにしてつぶやくとすぐ隣の人がコメントを返す、するとまた別の人が話に入ってくる・・そんな風景があちこちで見かけられた。
それまで見知らぬ市民同士がたまたまそこに居合わせたことでコミュニケーションが始まる・・・もちろんこんなミラクルが起こることは Claude 夫妻はお見通しだろう。
「ここに来る人のマインドを大きくしたい」
そんなことを夫妻が話していたのをどこかで耳にしたが、1人1人がいろいろな形で受け止め、人と人が交わりあって新しい考えが生まれていく・・・まさに人々のマインドがどんどん広がっていく様子を僕も目の当たりに出来た。
上にも書いたように僕自身がパブリックアートに参加するために、僕もこのブログで紹介することでわずかながら尽力に勤めることにした。
会期はとても短く16日間のみである。一度見たからいいや、などと思わず僕も何度か出かけてせっかくの機会を享受したい。

夕方、帰宅途中に地下鉄を待っていた高架駅で、真っ正面に不思議な夕焼けが見えた。
僕にはこれが「 The Gate 」と同期しているように見えて仕方が無かった。
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