Encounter

今思い出しても印象的なヒト、印象的な時間だった。
夕方オープンエアのカフェでコーヒーを飲んでいたときのこと。
もう5月とはいえ例年より涼しい毎日が続き、この日もそんな一日でカフェにいる他の客は屋内のテーブルに席を取っていた。なので屋外に7~8台あるテーブルのうち座っているのは僕1人だけで、1人でこの場所を占有しているような気分になりちょっとばかり優越感に浸っていた。
・・・はずなのだが程なく店内から若い女性が出てきた。
彼女は空いてるテーブルのどれを選ぶか迷うこともなく、僕の隣のテーブル、いや正確に言うと僕の目の前のテーブルにやってきて、コーヒーを置くと僕に背中を見せるようにして椅子に腰掛けた。
他にもテーブルは空いているのに何も目の前に座って僕の視界を遮らなくてもいいのになぁと思いつつ、すぐに別の思考に没頭した。数分ぎこちない沈黙が続いただろうか、目の前のそのヒトが唐突に話しかけてきた。いや、そもそも最初は僕に話しかけているのかどうかも分からず、僕はきょとんとしていた。というのも周りには誰もいないので僕に話しかけているようなのだが、僕に顔を向けるでもなく、ほとんど真っ正面を向きながら声を掛けてきたからだった。
すると彼女はさすがに横目で僕が見える程度に顔を傾けてちらっと僕を見やり、僕が耳をそばだてているのを確認して話を進めていった。
そのときになって初めてまじまじと目の前のその女性を見たのだが、頭にはサングラスをちょこんと乗せ、耳には大きなリング型のピアスを身につけており、そういった小物が彼女の雰囲気によく似合っていた。昨年カリブ海に行ったときの日焼けがすっかり取れた僕より浅黒い肌色をした彼女は、Puerto Rican か Dominican のようにも見える。
「こんな町はずれのカフェで何しているの?」
そんな他愛の無いことを尋ねられてはじまった会話だったが、そのうち彼女も Photography のクラスを取っていたことが分かると話は途端に写真の事ばかりになった。
この会話の間も彼女の顔はほとんど真っ正面を見据え、ときおり顔を傾けてこちらを見るくらいだ。そのため2人の間は小さな丸テーブルがあるだけの距離なのだが、うち解けた親近感とそれに反するような緊張感の両方が存在していた。
話しかけるときにこちらをちょっとだけ向く、その彼女の横顔が印象的だったので、会話中の写真を撮ってもいいかと尋ねると、
「撮る方は慣れているけど、撮られる方は慣れてないの。フォトジェニックじゃないし。でもどんな風に撮られるかちょっと関心もあるわ」
といってまた横顔をこちらに向けてくれた。
その場で撮った写真の何枚かを見せると、
「横から見ると私には大きなえくぼがあるのね。でもこの写真好きだわ」
彼女が満足そうに微笑むのを見て僕もカメラを置き、また「今日何をしてきた」とか「この後の予定はどうする」といった他愛の無い話題に会話が戻っていく。
「ところであなたはどこから来たの?」
- トーキョーで生まれて、今はここに住んでいる。
「私はマサチューセッツから引っ越ししてきたの。でも両親はポルトガル出身。」
- 僕は最初 Latina かと思ったよ。
「そう、New Yorkではよく Puerto Rican と間違われるわ」
そしてこの印象的なヒトは「私の名前はジェシカというのよ」と教えてくれた。

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