この料理店を見つけたのは本当に偶然だった。
アパラチア山脈が織りなす広大な峡谷、Delaware Water Gap に初めて行った昨年の秋、車で山道を走っていたときに不意に視界に入ってきた建物が、この料理店だったのだ。
このときはまだ明るい昼間だったので、「 あ、あそこに何かある 」 と視認できたが、そうでなかったら通り過ぎたかもしれない。
このあたりは雑木林が鬱蒼と茂るだけの山の中で、ところどころ開けた場所が見える。おそらく牧場として使われているのだろう、地面には青々とした春の草が生え始めたばかりだ。けれども家畜は見かけないので今はもう使われていないのかもしれない。
その雑木林の向こうには山脈が広がり、まるでここは山の箱庭のようなところであった。そんなところにこの建物だけがぽつんと建っていた。
その建物の前には土がむき出しのまま、広大な空き地が広がっているのだが、これはどうやら駐車場として使われているようだ。けれどもそこには車一台止まっておらず、外から見る限りなんのアクティビティも無かった。
それにしてもこんなへんぴなところにかなり立派な木造建築物が建っているのは不思議な光景だったが、このあたりには珍しくない、「 今はもう使われていない建物 」 の一つだと思い、それ以上の興味がわかずその場はただ通り過ぎたのだった。
そして車窓を流れる周りの景色に気を取られているうちにすぐにその建物のことは忘れてしまった。
そしてすっかり日が落ちて、車のヘッドライト以外になんの明かりも見えないような森の中を走っていると ( ためしに道の真ん中で車を止めて、ライトを消したら真っ暗になった! )、また例の一軒家が道の向こうに見えてきた。
近づいてみると建物は皎々と明かりが灯り、土がならされただけの空き地は今や50台以上もの車が整然と並んで停まっている。昼間はがらんとしていたのに、夜のこの賑わいは一体何なんだろうか。
ちょっと気になり車を止め、ライトアップされた看板を読むとそこには 「 Walpack Inn 」 と書かれている。
インというと日本語では東急インのようにホテルを連想しがちだが、もともとは食堂付き旅館のようなものを Inn と呼んでいたので、その結果食堂部分だけの営業しかやらなくなったものでも、Inn と名乗るところは多い。
そういえば逆に飯店という中国語はもともとホテルのことを指していると聞いたことがある。「 ○○インで食事して△△飯店に泊まります 」 となどと言うとなんだかおかしく聞こえるのは元々の意味から変わってしまったからこそ起こる現象なのである。
こんな風に日本では外国語が入ってくるときに本来の意味合いから多少変わってしまったものが少なくない。
話が横道に逸れたが、Walpack Inn をざっと見たところでは旅館を営業しているようには見えない。とすればレストランかもしれないとちょっとのぞいてみることにした。
空き地の外れに車を止め、入り口らしきドアに近づいてみると、すぐに答えは見つかった。入り口にステーキレストランという文字が書いてあったのだ。
その時点でとても空腹だったわけではないが、ここを発てば New York までの2時間ほどの間、夕食を取るところなどほとんど無い。あってもファーストフードのようなたぐいのものだ。
そう考えるとここで夕食を取っていくのが良さそうだ・・・などと言い訳じみた結論に達したが、実際のところこんな山奥にあるレストランにどうしてこんなにたくさんの人たちが集まっているのか、そのワケが知りたかったからに他ならない。どこからともなくこれだけの人が集まってくるのを見て、一体どんなにおいしい料理が並ぶのだろうと期待してしまうのは仕方がないことではあるまいか? ( 笑 )
扉を開けて中に入ると、外からは想像が付かないほど店内は広く、最初に案内されたウェイティングエリアだけでも普通のレストランのテーブルエリアよりずっと広い。ここはテーブルを案内されるまで、飲み物を飲んで待つところだから、そんなに長いをするところではない。それなのに部屋の真ん中には暖炉がぱちぱちと音を立て暖かな炎が燃え、そこはあるのはまさに山小屋のキャビンそのものであった。
さらに店内は入り口からウェイティングエリア、そしてテーブル席へと数段ずつ階段を下りるようになっていて、店内が立体的なのもドラマティックな演出になっている。山小屋風というのではなく、まさに本物のログキャビンの店内は、壁も天井も所狭しとこの近くで獲れた動物の剥製が立ち並ぶ。
渡されたメニューを見てびっくりした。この料理店は週末の金、土、日曜日の三日間しか営業しないのである。なるほど遠くから人がやってくるのもわかるような気がする。
こうして親切なウェイトレスからメニューの説明を聞いたあとたくさんの肉料理を頼んだのだが、その日の料理が忘れられず、この春もまた行ってきたのである。
最初に来た秋とは違って同じ時刻でもまだ外は明るい。夏時間のおかげである。最初に来たときは撮れなかった写真も今日は撮れそうだとカメラを持ってテーブルに着いた。
さて今日は何を頼もうか。

▲ 店内の様子。シャンデリアは鹿の角でできている。

▲ 猪のソーセージ、ダック、鹿肉、牛肉など肉の供宴。

▲ Blackberry Ice Cream Cake。
食事を終えて出口向かう道すがら、店内で一番大きな剥製、熊の全身像の前で知人の写真を撮っていると初老の男性が話しかけてきた。
「 この熊はこの店の中でも一番特別でしょう? 体重は250ポンドもあって・・・ 」 といろいろ説明してくれる。
あれ、この人もしかして、と思いながら話を聞いていると、
「 私の親戚が、これより大きな熊を射止めましてね、いま剥製のプロセスなんですよ。そうですねだいたい6ヶ月ぐらいかかるかな。秋にはここで見せられると思いますよ。これが250ポンドの熊ですが、今度のは450ポンドもあるそうです。どれだけ大きいかわかるでしょう 」 と言ってニヤッと笑う。
そうこの人こそ、この大きなレストランのオーナーだったのである。
店を出て、停めてあった車に乗り込む。車の後ろから巻き起こる砂埃に消えるように、そしてレストランは闇夜にかき消えた。


山小屋ちっくでいい感じのお店ですね。
それにしても、肉の供宴が凄すぎます!!!
何人分ですか????
でも、食べてみたいっヽ(^0^)ノ
eccoさん、
ここは秋と春に行きましたが、年中いい感じのところです。郊外ということでウェイトサービスもおざなりのものではなくて、自然に囲まれていることや時間の流れ方が違うからか笑顔もどこか余裕があります。
これは3人分くらいの食事かな。この店で焼いているパンは人間の頭よりでっかいんですよ。それがまた香ばしく、焼きたてのうちにパターを塗って食べるのがうまいんですよ。
New Yorkに来たら、ここは超お勧めです。
笑顔に余裕があるのって素晴らしいですね。
日本にいるとそのような余裕が全くありません・・・
NYに行くと、仕事をしていないからなのかも知れませんが、毎日笑顔になってしまいます。(^^)
NYへはいつも一人で行きますので、こちらのお店の料理を何品も頼む事が出来なさそうです。。
それに、外国で運転なんてちょっと怖いかも・・
ひ@NYさんのレスを読むと、パンが食べたくなっちゃいま(^◇^;)
eccoさん、
Manhattan、特にレストランやホテルの笑顔はやはり仕事用のものが多いですよね。
それって見ている人もつらいけど、きっと働いている人もつらいんだと思う。かといって不作法な対応も見たくないけれど(笑)
僕は海外に行くと、危険なところでない限りたいていレンタカーを借りて郊外をまわるようにしています。都市は歩いてまわれるけれど、地方に行くには鉄道では不便な事が多いからです。
車を走らせていてたまたま見つけた場所に立ち寄ることができて、旅にフレキシビリティがでます。
車の運転そのものが怖くなければ、郊外の旅も是非楽しんでください。
アメリカでも最近のレンタカーにはカーナビが着いているので安心です。