New York を発つ前のことだがDetroit についての情報をインターネットで調べていたときに、とてもユニークなマーケットがあるということを知った。いわゆる市なのだが、New York で見られる Green Market とは規模が違うようだ。
土曜日は一般の人も買い付けに行くことが出来るという話を聞きつけて、それならば土曜日はここを見に行こう、と決めていた。
そのマーケットは Eastern Market と呼ばれ、Detroit の Downtown のすぐ近くにあった。
地図で見ると、僕が宿泊していたホテルから歩けそうな距離のようだ。散歩するには良い距離だが、「 カメラを持って歩くにはしんどいか 」 と言う気持ちと、その後も続けて郊外に出かける予定があったので、車で出ることにした。
平日でも夕方のラッシュアワー以外は渋滞が起きない Downtown にあって、休日だというのにこのマーケットに近づくにつれ、車列が長くなり、しまいには渋滞と同じくノロノロ運転になってしまった。それだけたくさんの人が遠くから集まるのだろうか。
とはいってもあちこちに駐車場があるので、ちょっと歩くことを厭わなければ駐車場を見つけるのはそれほど難しいことではなかった。これが New York ならはそうは行かないだろう。
アメリカで市場というのに行ったことがなかったので、それこそどんな場所なのか想像もしてなかったのだが、Eastern Market は Russell Street という通りの両脇に大小たくさんの建物が並び、それぞれが市場となっていた。そしてそれらが集まったこの地域は大きな市場を形成しているのだった。
僕も早速市場のはずれに車を止め ( そこには 『 駐車は最大2時間まで 』 と書かれていたがパーキングメーターもなく、またチェックする係員もいないので、注意だけなのかもしれない )、カメラを持って市場を歩き出す。
ここには Detroit 近隣の農家が、花から野菜、果物、それに蜂蜜、クッキー、パンにチーズなどありとあらゆる Daily Product を売っている。
品物だけ見れば、New York の Green Market で売られているそれと同じだが、熟れている果物や野菜を見ると明らかにその新鮮さが異なる。
それと大きな違いはなんといっても値段が安いことである。New York が高すぎるのかもしれないが、だいたいどれも半額以下なのだ。
僕が行ったのは遅い時間だったので、買い物に来ている客の大半は一般の市民であり、そういった人たちの買い物の邪魔をしないように気をつけながら写真を撮る。郊外から来ている Farmer の何人かには声をかけると撮影に気軽に応じてくれたが、それでも忙しそうに働いている人には声をかけづらいものである。
殺気こそ感じるような忙しい市場ではないが、こういった事情でそろそろここを切り上げようかどうしようかと気をもんでいると、何者かにシャツの袖を引っ張られた。
何だ? と思って振り返るとそこには小柄な黒人老婦人が立っていた。
僕の頭のなかではきっとスーパーコンビュータ並みに彼女を観察して、どんな人か見極めようとめまぐるしく計算したに違いない。
年のころは70か80、なにやら大きなエプロンのようなワンピースをかぶっているのだが、それも決してこぎれいとはいえない。
僕の頭の中のコンピュータがはじき出した答えは 「 ホームレスの婦人 」 だった。
実はそれまでにも Downtown で写真を撮っているとどこからともなくホームレスの人たちが現れて小銭をせびられることが多く、辟易していたところだったのである。
その老婦人がおそるおそる手を出してきたものだから、ますます僕の中ではホームレスという確信を強めることとなった。
けれどもその手は握手に変わり、僕もなんだかよくわからないまま、握手することになった。その時の握手はぎゅぅっとではなくやんわりとしたもので、不思議と品があるように感じた。
握手をしながら彼女は自分の名前を名乗り、僕の名前を尋ねると続けて、「 ここで何をしているの?、どこの国から来たの? 」 と矢継ぎ早に質問を繰り返すので、いつのまにか彼女のペースにのまれて僕も彼女との会話を始めることとなった。
なんとなくこういうところで老人を邪険にすることに抵抗があったからだ。
「 日本の出版社の依頼で、ここで写真を撮っています。僕は日本人だけど、今は New York に住んでいます 」 みたいなことを伝えると、「 あらそれじゃあたくさん写真を撮った? 」 と聞くので、ええ、10枚くらいは、と答えた。
すると 「 それじゃあここの魅力を伝えられないわよ、私が人々に掛け合ってあげるから、一緒に歩きましょ 」 と先ほどつかんだ僕の袖をまたつまんで、歩き出す。
僕はどちらかというとあっけにとられて、わけもわからないままに彼女と歩く羽目になったのだが、彼女はそんなことにお構いなしにどんどん歩いていく。

市場の中の歩道の両脇に並ぶたくさんの店の前で、それこそ 「 見てご覧なさい、ここのトマトの見事な熟れっぷりと言ったら。緑のときに摘んでしまうとこんな色にはならないのよ 」 とか 「 この果物、見たことがある? これは○○と言ってね・・ 」 とちょっとしたガイドばりのうんちくが始まるのだった。
そのうち、蜂蜜とメープルシロップを売っている農家の店先に来ると、そこに並んでいた5センチ四方のビニール袋にはいった茶色い固形物をつまみ上げて、「 これなんだか知っている? あら知らないの? じゃあお食べなさい 」 といってその場でお金を支払い、そのなんだかわからないものを僕に手渡した。
僕が断る間もないほど半ば強引に手渡されたそれは、メープルシロップの固まりで、まるで板チョコと同様、きれはしを口に入れるとすぐに甘みが溶け出した。
「 ところでこの Gentleman とはどうして知り合ったんだい? 」 と店主が彼女に尋ねるとけらけらと笑いながら 「 私がそこで見つけて誘拐したの 」 と軽口のように答えた。
すると、その店の主人が僕を見て不思議にも 「 Oh-oh! You are in trouble! 」 というではないか。 「 ありゃまあ、やっかいな事になったなぁ 」 という意味である。
僕が無理矢理彼女に連れられているのを見てそういっているのだが、Trouble というほどのことではないのでなぜそういうのか解せなかったが、彼女はそんなことにかまわず次の店に行こうとする。

ところがこれと前後して、多くの農家の人たちや幾人かの買い物客が彼女に話かけるので、どうやら彼女がたくさんの人の間でよく知られた存在のようだ、ということに気がついた。
そして彼女が言ったようにいろいろな人に掛け合って、僕が写真を撮ってもかまわないかどうか話をしてくれるのだ。
すると不思議にも誰も No といわず、それどころか写真を撮ると 「 どうもありがとう。もし良かったらプリントを送って欲しい 」 というのである。
何者なんだろう、この女性は? と思っていると、その答えは程なくしてわかった。

次回に続く・・・

この女性の正体が非常に気になります。一体どうゆう人なのでしょうか。もしかしたら、このマーケットの主催者なのかなぁ。解決篇がとても楽しみです。
気になる、気になる、とーっても気になる。
早く続きが読みたいです。
それはそうと、いつも楽しく拝見しております。
特に写真はとても好きです。
これからも楽しませてください。
タナベさん、
初めまして・・・かな? よろしくお願いします。
この女性の正体、いよいよ明らかになります。こうご期待。
ききさん、こんにちは。
続編もだいたい書き上げましたので、近いうちにエントリーをアップします。一体どんな人か、予想してみてください。