NY Subway

平日の朝というにはちょっと遅い時間 - つまり普通の会社ではとっくに業務を開始している10時過ぎ - 僕は地下鉄に乗っていた。
もうラッシュのピークは過ぎていたものの、それでも空席は見あたらず、あちらこちらに立っている人がいる車内。
次の駅で降りる人というのはたいてい態度でわかる。そわそわと車窓をのぞいたり、洋服の乱れなどを直したりするからである。僕の目の前に座っていた女性もそんな1人のようで、着こなし確認作業も終わってすくっと立ち上がった。女性と入れ替わるようにして座った途端、大きな乗換駅に着いた。そして僕の目の前の視界がすっと開いた。
ほとんどの人が降りて、僕のいる一角には、隣に30歳ぐらいのスーツで決めた金髪の女性。そのさらに隣にはバックパックを背負ったラティーノ。彼はこれから大学にでも行くのだろうか。そして僕の前に座っている若い男性二人組の5人だけになった。
僕らはそこに着くまでずっと立っていた同胞のようで、席に着いた途端思い思いの行動を開始した。
隣の女性は手に持っていた鞄から化粧道具を取り出し、揺れている車内で器用に makeup をはじめた。
その隣のラティーノ学生はポケットから iPod を取り出し、曲の選択をはじめた。気に入った曲が流れはじめたのか、体をくゆらせてハミングで歌い始めた。
僕の目の前の男性二人組は世間話やテレビの話をしている。
僕はもっぱら人物観察にいそしむ。
広い車内には数えるほどしか乗客がいないので、みんな他人が何をしているのか、気にしないフリをしながらお互いチェックしている・・・そんな空気が流れた。
会話の終わりに近づいたのか、それとも地下鉄がスピードを落としたので次の駅の気配を感じとったのだろうか、目の前の若い男性二人組は、まるで共稼ぎの夫婦のように 「 じゃあまた後でね 」 といって口づけをした。白人の女性もちらっとそれを見ただけで化粧に余念がなく、学生も何かの曲を口ずさみながら ( 演奏が聞こえないので、彼の歌からその曲名を当てることができるとしたら、それはかなりの想像力を使わねばなるまい ) 薄目を開けてみていた。
そうしてそれまで真っ暗だった車窓が突然蛍光灯の明かりに代わり、轟音とともに地下鉄が駅に滑り込んだ。
僕の隣の白人女性はすっかり makeup を終え、金融フィールドで働いているかのようなどこかきりっとした、戦う顔になった。
パックパックのラティーノもまた、これから向かうところが戦場であるかのように、iPod のボリュームをより一層上げる。
男性カップルも立ち上がった。
地下鉄が完全に停止し、ドアが開くと僕ら全員が降りた。
みんなそれぞれの方向に歩きだす。New York のいつもの朝の風景。
コメント