
※ 街の美術館で大統領選挙の投票をする人たち。朝から各地で行列となっている。
ここしばらく市井を賑わしていた次期アメリカ大統領選挙が終わり、一週間が経った。
僕は今もって米国市民になっていないので端から見ているだけの選挙であったが、選挙権のない僕から見ても今回の盛り上がり方はこれまでに無いものだった。在米外国人も多かれ少なかれ、米国市民と一緒に興奮の渦に包まれたのではないだろうか。
選挙戦半ばでは何度もディベートが行われる。これがテレビのゴールデンタイム ( アメリカのプライムタイム ) に全国一斉放送され、多くの人がテレビに釘付けになる。
それを各家庭で見るだけでなく、普段スポーツ番組を流すようなバーだとか、カフェに集まって、見知らぬ人たちとディベートに盛り上がったりもする。
僕は日本で投票をしたときのことを一生懸命思い出そうとしたが、何を基準にして選んだのかすらあいまいで、政見放送や政策を確認した、と言う記憶もあまりない。そんな僕の選挙観に照らし合わせると、アメリカの大統領選挙はもう一大イベントというほか無かった。
それでも、半ば熱狂的とも思われた今回の市民の盛り上がりは選挙をピークに徐々に鎮まっていくことだろう。次期大統領にとってはこれからが正念場だろうが。
今回に限らずこれまでの選挙でもそうだが、大統領候補は最終的に実質、民主党候補と共和党候補に絞られ、両候補の一騎打ちになるため、サポートする陣営をめぐって国が二分されることになる。
今回は政策について語るつもりはないので、どちらの候補者についてとやかく書かないが、アメリカの選挙を見ていて印象的だったことを書いておこう。
それは 「 情報力の規模が違う 」 ということ。
特にオバマ陣営は情報をうまく使いこなしていたことはよく知られている。中でもインターネットは効果的に使われていた。
選挙資金を募るウェブサイトが用意され、寄付金は少額から、と誰でも気軽に行えることが功を奏して、幅広い層から効果的に莫大な選挙資金を集めることができたと言われている。
また iPhone ユーザ向けには専用アプリが無料で公開されるなど、情報機器をも巻き込んでいたのが印象的であった ( 僕の知る限りマケイン陣営からのアプリはリリースされなかった。) 他にもブログや SNS などを駆使し、短期間で広くオバマ候補が知られることとなり、それが支持へとつながっていったのはインターネットによる露出効果が大きいだろう。
一方情報を告知するだけでなく、収集や分析といったことが選挙では重要である。
メディアの報道を見ていると、有権者に対するプロファイリングには舌を巻くことがしばしばあった。
例としてフロリダを見てみよう。ここ何度かフロリダ州は大統領選挙の行方を左右する、キーとなってきた。前々回の選挙でブッシュとゴアが接戦をくりひろげ、票のカウントに不正・不具合があったのではと訴訟にまで発展し、選挙後しばらく大統領の席が確定しなかったのは記憶に新しい。
また今回民主党候補を選出する際も、フロリダ州はヒラリー・クリントン支持にまわったが、フロリダの票のカウントされなかったため、クリントン氏はその後厳しい戦いを強いられ、結果的にはオバマ氏が選出されたのは知られている通りである。歴史に 「 もし 」 は無いと言うが、フロリダ州の票が加算されていたなら、もしかするとヒラリー・クリントンが民主党代表候補となり、結果として米国歴史上初、女性大統領になっていたかもしれない。
フロリダがこうして注目を浴びるは、この州が New York や California 州とならんで大票田だからである。
もともと同州は County 別に見た場合に比較的共和党支持層が厚いところなのだそうだが、人口はマイアミなど大都市に偏っており、オバマ陣営は中でもマイアミのキューバ系移民の支持を取り付けるのに成功したためにフロリダ州を制することができたとメディアは分析している。
キューバ出身の知人からも聞いてはいたが、メディアの調査によれば、キューバからの移民は総じて共和党を支持しているのだそうだ。また親の影響を直に受ける二世もまた共和党支持に回ることが多いらしい。ところが今回政治に関心を持つ世代が三世の時代になり、英語を第一言語として育ってきた彼らの支持をオバマ陣営が取り付けることに成功し、フロリダの流れが変わったということらしい。
また別のメディアが報じていたのは、収入別支持政党・候補の分析である。選挙後の出口調査では 「 年収が10万ドル以上の人のうち今回民主党支持に回ったのは52%だった 」 などと、かなり多方面から有権者の動向をつかもうとしている ( これまでこの年収より多い人たちは総じて共和党支持が多かった )
選挙を大きく左右する要因が、日本では「性別」「世代」「収入」「職種」だとすると、このように米国はそれに加えて「人種」「宗教」など別の要因が関わるためさらに複雑なものとなる。
特に今回は人種がもっとも注目を浴びたことは否めない。また金融危機が支持する候補を決めるもっとも重要な要因となったというアンケート結果も出ているほど、本選挙の特殊性をさらに強めている。
うがった見方をすれば、絶妙なタイミングで金融危機の大規模な破綻が 「 発生 」 したとも言える。リーマン・ブラザーズの元上級役員が 「 なぜうちだけが金融支援を受けられなかったのかわからない 」 という恨み節を表明したことから、スケープゴートのようにも見えなくもない。同社の破綻がもう少し早かったり、遅かったとしたらこれほどまで大統領選挙と絡めて、語られることもなかっただろう。
いずれにせよ、金融危機が今回の選挙を左右したのだとすれば、マケイン候補は現大統領に足を引っ張られたと言うことになる。
New York は伝統的に民主党が強いエリアであり、オバマ氏勝利は確定していた。投票前に結果がわかっているような選挙では投票しない人も多いのではと思うのだが、それでも今回の選挙は多くの人の耳目を集めたとあって、選挙当日の行列は普段になく長いものとなった。
僕の知り合いの中には投票を30分で済ませたと言う人もいれば、朝一番に行きながらも2時間並んでやっと投票できたと言う人もいた。
上で紹介した写真の例でもわかるように、投票所は学校に限らず、地元の書店だったり、小さな街の美術館だったりするのだ。
アメリカの選挙そのものが選挙人を用いるなど伝統的なスタイルで、かつ投票に使われる装置が何十年も昔に作られたものという州が今も多く存在する。その一方で IT を駆使し、情報戦を繰り広げるアメリカの大統領選挙は伝統とハイテクの二つの側面を持っている。それがまた選挙を一大イベントとして成り立たせているのだろう。