iPhone 3G
いよいよ iPhone 3G の世界同時発売へのカウントダウンが始まった。たかが携帯電話であるが、されど携帯電話であり、iPhone 3G の発売を心待ちにしている人も多いだろう。
アメリカで iPhone が発売されておよそ1年。僕自身発売日当日に New York、SOHO にある Apple Store で購入したので、使い始めて1年になる。
iPhone を初めて見たのはそれよりさらに半年ほどさかのぼった2007年1月のことで、San Francisco で開催された Mac Expo へ取材に行ったときのことだった。キーノートスピーチの壇上、Apple CEO、スティーブ・ジョブズが高らかに見せた iPhone に聴衆は釘付けになった。その聴衆の中にはソフトバンク社長、孫氏の姿もあり、おそらく日本ではソフトバンクが取り扱うことになるのでは、と早くから想像していたのはそういう理由からだった。もちろんそれ以外にもソフトバンクの方が競合他社よりずっとコンピュータリテラシに明るく、ビジュアルボイスメールへの対応などソフトバンクの方が身軽に動けるという感が強い。加えて、米国の iPhone には最初からインストールされている「Yahoo! MailのPush対応」「株価情報アプリ」「世界の週間天気予報アプリ」などは Yahoo との協業によるもので、データも Yahoo から提供されている。今回日本で iPhone 3G が発売されるにあたり、これらがヤフーのサービスに置き換えられるのかどうか不明だが、少なくとヤフージャパンを傘下に持つソフトバンクにとってこれは有利な交渉の材料になったことだろう。
iPhone 3Gは今回お膝元の米国のみならず、日本など世界各地で同時に発売されることになっており、米国での登場から1年お預けを食らった日本のユーザからは「やっと使うことができる」という声が聞こえてくる一方、携帯電話キャリアや携帯電話製造メーカーの反応は「とうとうやってくる」というニュアンスがメディアを通して感じられてとても興味深い。
携帯電話に限らず、家電製品や自動車など一般に多機能になればなるほど、消費者にはその区別がつきにくくなり、結局販売店や製造メーカーが用意した「機能比較表」で選ぶことも少なくない。
そのおかげで製造メーカーは一つでも比較表の星を取ろうと、いたずら機能追加に走り、その結果大半のユーザは豊富な機能のせいで使いこなせなかったり、却って意図せぬ動作を招くことになり兼ねない
似たようなことはイマドキのコンパクトデジタルカメラにも起きていて、僕が知っている限り New York で旅の記念にきれいな写真を撮ろうと思う人でさえ、ほとんどの人がデジカメを使いこなせていない。
「そんなにたくさんの機能、あっても使わないと思うけれど、万一使うかもしれないから」と思って購入する人が多いからではないか。そういう意味では多機能な家電に導いたのは業界だけでなく、消費者も荷担してきたことになる。
初代 iPhone が初めて紹介された2007年のキーノートスピーチで、スティーブ・ジョブズは既存の携帯電話、特にスマートフォンを取り上げ、これらがいかに使い勝手が悪いかをあげて見せたが、iPhone はユーザインタフェースそのものを機能と同じようにとらえ、開発してきた経緯がある。つまり OS およびアプリケーションの開発を長らくやってきた Apple にとって、携帯電話事業は初めてでも、この分野にかけては大きなアドバンテージを持っている。それに比べると日本の携帯は多機能だが、その開発アプローチが僕には家電製品的に思える。ホームスクリーンから始まって住所録、ブラウザ、メール、楽曲再生、動画再生などのソフトのインターフェースがてんでばらばらで、またそれらのアプリケーション同士の連携が取れていない。
iPhone を使い始めるとすぐに感じると思うが、もっとも感心するのがユーザインタフェースの細部のつくりこみだろう。
画面の切り替えや、表示モードの切り替え、それにアプリの起動や切り替えなど、それぞれに固有のアニメーションがかかっている。たとえばこんな感じだ。
カメラアプリを起動し、写真を撮る。画面の片隅にフォトアルバムアプリ起動のアイコンがあるので、それをタップする。するとオプションが表示され「壁紙にする」「メールに添付する」「電話帳(コンタクト)にアサインする」などの機能が選択できる。試しにメールを選ぶと、表示されている写真が縮んで小さく表示され、その間に背景はメールソフトに切りかわっている。つまりオリジナルサイズの写真から縮小画像を生成していることをユーザにわからせつつ、その間にメールアプリの起動時間を稼いでいるのである(もちろんメールにオリジナルサイズの写真を添付することもできる)。ちなみにここで電話帳を選ぶと、登録済みのリストが表示され、その中から一人の名前を選ぶと、電話がかかってきた時の画面を摸したイメージが表示される。つまりその人の名前とそれがその人の携帯電話なのか勤務先なのか、自宅なのかと言った情報とともに写真が画面一杯に引き伸ばされているのである。そもそも写真はこういった文字情報が入ることを想定して撮らないことがおおいので、顔がかぶってしまうことがある。そのため iPhone はこのときに指で写真をつまんで拡大したり、その表示位置を変えることができるようになっている ( つまり簡単なリサイズと移動というレタッチが可能 )。
これらの画面の切り替えにはほんの一秒足らずのアニメーション効果が使われていて、自分が何のモードを操作しようとしているのか、使用者が迷うことがないようになっている。
加えてこのアニメーションは内部処理に時間がかかるような場合でも、視覚的な効果によってユーザが感じるストレスはかなり軽減されるという実証データにに基づいている。
もう一つ端的な例として、フォントがあげられる。iPhone で表示される日本語文章を見た日本人は異口同音に「iPhone の日本語フォントの方が見やすい」という。これはよく考えてみるととても興味深い。
日本のドメスティックな会社が開発した機器の日本語より、「黒船」( 日本のメディアの言葉を借りて言うと ) の iPhone の方がずっと美しい日本語字体を採用している、ということになる。これは早くから Mac OS でベクターフォントを導入してきた Apple ならではのもので、調べて見ると日本の携帯でもベクターフォントを採用している機種があるらしいが、まだ一般的ではないようだ。上に書いたように「日本の携帯電話が家電製品的なアプローチで開発されているように思える」と書いたのはこのフォント部分にも感じられる。洗濯機も炊飯器も皆小さな表示ウィンドウを持っているが、そこに表示される文字列は限られたもので日本語フォントを美しく表示しようという姿勢はこれまで特に無かった。携帯電話の表示画面に関しても、ラスターフォントを搭載するのが精一杯で、そこから大きな進歩が見られなかった。
もともと携帯機器ザウルスなどを熱心に販売していたシャープは携帯機器向けにベクターフォントとそのエンジンを持っているようだが、システムとして組み込まない限り、全体の統一性などは得られない。
下は iPhone での iDic という電子辞書アプリのスクリーンショットだが ( そもそもこんな風に携帯画面のキャプチャが気軽に撮れる機種は Pocket PC 系の携帯をのぞくと日本には無かったのではないか? ) フォントのサイズを変えても、もちろんジャギーは発生しない。また非常に小さなフォントサイズを指定してもつぶれることがない。

※フォントサイズに40ポイントを指定

※僕が標準として指定している18ポイントだとこんな感じ。

※ルーペが必要かもしれないが、それでも文字自体はくっきりしている。10ポイント
iPhone のユーザインタフェースや機能をまねすることはできても、おそらくフォントに関してはそう簡単に追いつくことはできないだろう。携帯電話の OS を OEM に頼っている以上、実現まで時間がかかるのは想像に難くない。
iPhone は早くからユーザコミュニティのサポートがあり、いわゆる Jailbreak 「脱獄」させることでサードパーティのアプリを実行することができるようになっている。
下のスクリーンショットは僕の iPhone のホームスクリーンのものであるが、こんな風にがらりと雰囲気を変えることも自在にできる。たかがアイコンということなかれ。こういったデザインは PC では自分の好みに変えられるのに、従来の携帯電話はそのほとんどがデザインがお仕着せのもので、逆に言うとそれが携帯機種購入の要因の一つになったりしたものだ。が iPhone では気に入らなければ着せ替えればいいのである。
こういう仕組みは、iPhone を広告媒体として見た場合、とても面白い使い方ができる。「 iPhone デスクトップテーマ 」 として背景やアイコンなどトータルにデザインしたものを配布してユーザが自由にインストールできるようにするのである。電車の車内広告をすべてトレインジャックしてしまうように、飲料水やら製菓やらゲームソフトのキャラクターなどで iPhone の画面を埋め尽くしてしまうこともできる。

※ アメリカの自動販売機を摸したデスクトップイメージ。該当するアイコンがないアプリに関しては、アプリが持つアイコンがそのまま表示されている。iDicとその隣のソリティアがそうである。
今回日本で iPhone が発売されるということで、個人的に期待していることがある。それは iPhone アクセサリが本格的に充実するだろうということ。
これまでもアメリカでたくさんの iPhone アクセサリが発売されてきたが、そこはアメリカ、どうも大味のものが多くいまいち気に入るものが無い。特に iPod もそうだが、標準のヘッドフォンは僕の耳の形状にあわないせいかすぐに外れてしまう。仕事前に毎朝ジムに行ってランニングとウェイトをここしばらくやっているのだけれど、Treadmill ( いわゆるランニングマシン ) の上で走っていると簡単に耳からすっぽ抜けてしまう。
ケースを装着するのは好きではないのだが、僕はよくポケットから落としてしまうので、透明なプラスチックケースに入れている。これも日本発のよいものが出てこないか、期待しているものの一つだ。
魅力な点が多く、そのすべてを一つずつ羅列するのが難しい iPhone だが、もちろん不満な点もある。
すでに WSJ や NY Times にレビューが掲載されたが、やはり 3G ということでバッテリーの持ちが悪いようだ。この点、日本は FOMA が発売されたときに同じような声が聞こえたが、日本の人はすでに免疫ができているので iPhone 3G のバッテリーのもちにそれほど不満はないかもしれない。
特にデータ通信を使ったアプリが豊富な iPhone で米国ユーザからどんな反応が出るか、少々興味がある。
それらのことをふまえて、iPhone 3G の次に来るものを予想してみると、こんなところではないだろうか。
・iPhoneファミリーの拡充
Mac や iPod に異なるサイズ、ターゲットの製品があるように、iPhone もそろそろターゲット別の製品を出してもおかしくないだろう。小型化またはクラムシェルタイプにした iPhone nano や電子ブックサイズでかつ電子ブック、軽量 Mac として使える iPhone Pro など。
・iPhoneに搭載されているプロセッサの高性能化、低消費電力化
たしか独 Intel の人間がリークしたようだが、iPhone に Atom が搭載されてもおかしくない。これは来年以降か。バッテリの持ちと処理速度の向上が見込めるので、32GB 版になって登場してほしい。
・iPhone次世代ネットワーク、WiMax対応
EDGE から HSDPA になって速くなったとはいえ、世の中のインターネット利用はますます進む。3G にとどまることなく、3.5G または 4G 版の iPhone も開発が進んでいるのではないだろうか。
さてとりとめのないことを書いてきたが、 iPhone 3G の日本発売で気になるのが、カメラのシャッター音である。
たぶん盗撮防止が目的だと思うが、日本の携帯電話は写真を撮る瞬間、電子シャッター音が鳴るようになっているようだが ( 少なくとも日本から来た友達が持っていた携帯は皆、この音がした )、これは業界で横並びにつけている機能なのだろうか ( そうだとしたら余計なお世話 )。
iPhone にも2メガピクセル相当の単焦点レンズデジタルカメラがついており、あの嘘くさいシャッター音は抑止できる。本体横のミュートスイッチをオフにすると、無音になるのである。
こちらでは iPhone で盗撮した、という事件を耳にしないが、日本では iPhone を悪用する輩が出るのではないか・・・と今のうちに予言しておこう(笑) それが競合他社キャリアや携帯製造メーカーによる恣意的な iPhone バッシングに結びつかないといいのだが。
発売までいよいよわずかとなった。僕もアップグレードする予定なのだが、料金プランを見ていて気がついたことがある。
もともと iPhone 8GB 版は$599もしたのだが、今回の iPhone 3G は$199と確かに安くなっている。がその一方で、月額利用料を見るとかなり値上げしている。
データ通信料金は、利用無制限で$30で、従来より$10高くなる。これは3Gになったのだから致し方ないところ。見落としそうなのが、実はテキストメッセージがオプションになったということである。
これまで基本料金で最低限のテキストメッセージを送ることが出来、それより多く利用する人はさらに追加料金を払ってその上限をあげることができた。
アメリカでは携帯キャリアが異なっても電話番号だけで、テキストメッセージを送ることができるので、ほとんどの人が日常的に使用している。逆に携帯メールを使うのは Blackberry 端末ぐらいだろう。
僕はこれまで追加料金$10を払って確か200+1500通/月だったのだが、3G を購入した場合さらに$5上乗せになる。つまりデータ通信料金$10の値上げとこの$5で月々の料金は$15あがることになる。最低二年の契約が必要なので、その期間に払う追加料金は$360ということになる。つまり iPhone が$199 になったが、支払う金額は結局同じということになるのだ。
うーん、またしてもスティーブ・ジョブズ マジックだ(笑)














